MitO onomichi ゲストハウス
業種/宿泊施設
工種/新築
構造/木造
規模/3階建
床面積/132.24㎡(40坪)
2024年7月オープン。
2024年。案内されたその場所を見た瞬間、一瞬足がすくんだ。
尾道市役所にもほど近い、中浜通り。
そこに佇んでいたのは、内覧することすら躊躇われるほど老朽化が進んだ
古びた3階建ての家屋だった。
間口はわずか4m、奥行きは26m。
尾道特有の、両隣と壁が隙間なくぴったりと接する
細長い鰻の寝床のような敷地。
だが、視線を上げると世界が一変する。
目の前は尾道ロイヤルホテル。
反対側を振り仰げば、千光寺へと続いていく
ロープウェイのゴンドラが揺れていた。
夏の尾道花火大会の夜には、
夜空を彩る大輪の花が目の前で開く最高のロケーションだ。
「ここを解体して、ゲストハウスを建てたいんです」
オーナーの言葉に、頭の中で瞬時に計算が走る。
近年、建設コストの急騰は凄まじい。
通常の貸し店舗やアパートでは到底採算が合わない状況だった。
しかし、ゲストハウスという解なら勝算はある——そう踏んだ。
だが、ライバルの多いこの尾道で、ただ「綺麗で安く泊まれる部屋」を
作ったところで埋もれてしまう。
花火が見えるロケーションは抜群だが、花火大会は年にたったの一度きり。
それだけを頼りに経営を成り立たせるのは無謀だった。
夜遅くまで何度も膝を突き合わせ、議論を重ねた。
「花火以外の日も、ここに来る明確な『理由』をつくろう」
導き出した答えは、本格的なサウナを備えた3階建て。
そして尾道の風を感じられるルーフトップには、
贅沢な足湯を設ける計画だった。
そこからは、難題との格闘の日々だった。
敷地の間口を考えれば、建物の有効間口はわずか3mが限界。
それでいて尾道水道の美しい海並みを望むには、
しっかりと高さを確保しなければならない。
構造設計者と図面を挟み、ミリ単位の検討を何度も何度も繰り返した。
止まらない建築資材の高騰に、コスト調整の作業は難航を極めた。
やがて着工し、現場が動く。足を運ぶたびに期待と不安が交錯した。
自分が頭の中で描いた「あの景色」に、本当に出会えるのだろうか。
上棟の日を迎えるまで、胸の鼓動は鳴り止まなかった。
そして、ついにその日が来た。
柱が組み上がり、上棟を終えた瞬間、私は作業足場をすり抜け、
一目散に屋上へと駆け上がった。
息をのんだ。
視界いっぱいに広がったのは、青く輝く尾道水道と、心地よい海風。
それは、私が描いていたイメージそのもの、圧倒的な絶景だった。
「——いける」
胸の奥から確信が込み上げた。幾度となく頭を抱えたコスト調整の苦労も、
あの細長い敷地での設計の苦悩も、そのひと目で全てが鮮やかに吹き飛んでいった。
無事にオープンを迎えたゲストハウスは、今、多くのゲストを惹きつけ、
順調に利益を重ねている。
そして今日もオーナーは、次なるストーリーを描くため、
新たな土地を探して尾道の町を歩き続けている。
